若者から百歳まで全世代が活躍できる健幸まちづくり事業

若者から百歳まで全世代が活躍できる健幸まちづくり事業

(1)地方創生として目指す将来像
2020年から2035年の間に約6,000人の人口減少が予測されている。この減少は、若年女性の減少と出生率の低下(5年間で204人→142人)、20代・30代の転入者の不足によるものである。また、高齢化も進行し、5年間で5%増加し、39%に達する見込みである。この状況下で、労働人口の不足や地域の活力低下などが懸念される。
この課題に対して、本市は第6次市総合計画において、「つながり つどう 縁結ぶまち 南陽」を将来都市像とし、さまざまな縁によって生まれる付加価値を最大限活かすまちづくりとしを進めている。本事業は、このまちづくりを後押し、特に人口減に歯止めをかけるために、以下の施策を実施する。
・まちの観光資源(赤湯温泉・熊野大社を中核としたコンパクトなまち、スポーツ活動・果物・食文化など)を再認識し、住民がその魅力を再発見すること
・観光資源を生活に取り入れ、地域のイベントに参加して地域への愛着を深めること
・住民が危機意識を共有し、まちの魅力を発信し、交流・関係人口の増加に繋げること

(2)地方創生の実現における構造的な課題
"2010年~2020年にかけて、若年女性人口が3,382人から2,626人に減少、そして出生率も1.54から1.41に低下した。その要因は、進学や就職により10代後半から20代前半にかけての転出が多く、一方で子育て世代である20代後半から30代の転入が増加せず、社会減が続いたことにある。
この背景には、まちの賑わい、日常生活の利便性の向上・子育てしやすいまちづくり等の課題が解決できていないことがあげられる。

【若年層の住みやすさの満足度が低さ】
まちの魅力に対する市民意識調査結果を確認すると、本市を「住みよい」と回答した人は中学生83%に対し高校生61%。市民全体も68%に留まり、SWC施策を先行する見附市90%と比較すると低い。また、「住み続けたい」と回答した人は、市民全体は67%。中学生56%から高校性34%に低下。中高生の本市で充実して欲しい事の上位は「買物・食事が楽しめる施設」・「健康・スポーツ・趣味の活動ができる場」・「観光・レク・娯楽施設」。これらの満足度をあげることが、住み良いまちとして、将来の転出抑制・転入増加につながると考える。

【若年層のコミュニティの希薄化】
若年層(特に子育て中の女性)においては、コロナ禍により自治体主体の母親対象のイベント等の開催が中止され、その結果、妊産婦・乳幼児の母親の孤独化が進展を招いた。現在は母親教室等を開催するが、この間の若年女性人口・出生率ともに低下し、参加人数そのものが少ない傾向のままとなる。子育てしやすいまちとして、他市町と差別化を図るためにも参加率を高める施策が求められ、当該者だけで解決できるものでなく、地域で支え合う仕組みの構築が必要となる。

【コロナ禍による地域のソーシャルキャピタルの低下】
都市構造として、本市は赤湯地区と宮内地区を中核としたコンパクトなまちであるものの、広範囲に住民が分散していることから、公共交通の空白区域が多く、自動車依存度が高い。そのため、人と人とが出会う場面、特に偶然の出会いの場が少なく、地域のソーシャルキャピタルが低下しやすい環境にある。
そこに、コロナ禍の影響で地区行事(運動会・文化祭など)の中止が相次いだことにより、人との出会いが極端に低下した。令和5年度より地区行事開催などは復活するも、周囲の感染高止まりの状況への憂慮および、高齢化による担い手も不足等も進み、コロナ禍前の参加規模に戻っていない状況にある。
一方、南陽市出身オリンピアンによる地域活動など、若い世代による新たな地域おこしの動きも出てきている。今後は、地域のソーシャルキャピタル向上にむけて、若者から高齢者まで、“核”となる人材を発掘することが必要となる。

【まちの魅力の発信不足】
平成27年度108万5千人から令和元年度まで微減傾向にあった。そして、コロナ禍により令和3年度48万1千人まで減少。その後、新型コロナ5類移行後、多くの行事がコロナ禍前のスタイルに戻り、にぎわいと人流の往来が復活しはじめ、令和4年度71万6千人、令和5年74万6千人まで回復するが、コロナ禍前の水準には達していない。
そもそもの交流人口が微減の要因は、情報発信力の不足と考察する。これまで『南陽市役所ラーメン課R&Rプロジェクト』を中心に、自治体発信のPRを展開してきたが、住民による積極的なPRが不足していた。他自治体の成功例では、住民がSNSなどを通じて、地域の魅力・商品を積極的にPRしている。その点がコロナ後においても改善されず停滞する。
将来の交流人口増加には、各施設・各店舗個々の取組だけではなく、本市の地域資源を活用し、様々な体験ができる環境を整えること必要である。そのためにも、若者から高齢者まで全市民が、まちなかで体験・利用し、その魅力を市内外にPRする必要がある。

(3)事業の概要
"本事業では、人口減に歯止めをかけるため、あらゆる世代の誰もが、それぞれの関わりや交流を持つ場所や仕掛け、活躍する機会をつくり、生涯を通じて健康でアクティブに活躍できるまちを目指す。
具体的には、“コミュニティ活性化施策”とその動機付けのための“インセンティブ健康プログラム”をパッケージ化させた大規模なポピュレーションアプローチ事業を実施する。そして、短期的な効果(交流促進・健康度向上・情報発信力向上)とともに、まちの魅力向上のためのハード整備事業(JR赤湯駅前整備・宮内コミュニティセンター整備)の活用を後押しするための市民意識啓発、そして、その副次的効果として、社会保障費抑制による政策経費の獲得を狙う。

1)若年層にとって“住み良いまち”とするための健幸まちづくり事業
◆“ウォーカブル”を鍵としたコミュニティ活性化施策
・健康部局とスポーツ・まちづくり・商工観光・教育部局等で連携体制を整え、市内(主に赤湯地区・宮内地区)で行うイベント、各地域コミュニティ施策(生涯学習活動、観光イベント、スポーツ運動教室)ともに、市民が“歩いて”参加する工夫を促す。
・市全体のコミュニティ活性化策として“ウォーキングタイム”を推奨。対象市小中学校の通学時間(8-9時、15時30分-16時30分)にあわせてウォーキングを推奨する。
・街中の観光拠点を巡るウォーキングコースおよびウォーキングラリー・イベントの開催などを、商工会・観光協会等と調整して実施する。
・令和5年度よりオリンピアン池田めぐみ氏が立ち上げた「一般社団法人ヤマガタ アスリートラボ」による子育て女性支援のコミュニティ(子育て女性を対象としたライフパフォーマンス向上を目的としたコンディショニング教室)を推進する。市が行う妊産婦・子育て世帯への伴走型相談支援、そして後述の企業を通じた支援メニューとする。
・上記の“ウォーカブルなまち”を目指す各施策について、市民の意識啓発を目的にシンポジウムを開催する。シンポジウムは有識者による健幸都市の在り方に関する議論とともに、市民主体の各種取組の発表の場とすることで、多くの市民が交流できるよう仕掛ける。

◆子育て×運動・健康によるウエルネス向上策
・若年層の雇用促進(=転入者増加)にむけ、まちのウェルビーイング向上にむけた官民連携の取組として、市内企業の健康経営を支援する。
・本市の子育て女性の就業率は高く、多くは市内企業に勤める。そこで、子育て世代(特に女性)へのアプローチは、自治体で個々人にアクセスするより、就労する市内企業を通じてアクセスしたほうが効果的と考える。そこで、商工会等と連携して、市内企業を対象に、本市が取り組む「コンディショニング」を切口とした“子育て×運動・健康”の施策、そして、それを促進するインセンティブ健康プログラム(後述)への参加を促すための勉強会等を開催する。
・インセンティブ健康プログラムは企業ごとに参加登録(有料)し、従業員の歩数・体組成データを組織別に管理、そして個々人の努力と成果に応じてインセンティブを付与する仕組みを提供する。また、企業参加者にも前述のイベント・コミュニティ施策には積極的に参加してもらうようインセンティブを付与する。

2) まちの魅力発信力の向上
・SWC協議会※と連携し、市民の中でも発言力の高いインフルエンサー(プログラム参加者・食生活改善推進員等)を対象に、 “健幸アンバサダー”(生活の中で家族やご近所の人、職場の人などに健康に関する正しい知識を伝え、健康づくりの輪を広げていく活動の担い手)を3年間で200名養成する。
・ “子ども”を通じて父母・祖父母、そして地域に本市の魅力をPRする。具体的には、市内小中学校を対象に、オリンピアン・パラリンピアン等が講師となる夢の教室授業を継続し、スポーツの素晴らしさ・必要性を講義し、その体験を父母・祖父母に伝える役割を子ども達に持たせ、地域全体でまちの魅力度の向上を目指す。
・インセンティブ健康プログラム(後述)は2500人の市民参加を見込む。そこで、この2500人に対して、本市が行う交流移住・関係人口・定住人口増加策(フラワー長井線の経営支援、市民が主役の地方創生事業、ラーメン課R&Rプロジェクト、南陽市文化会館自主事業等)の情報を随時提供する。そして、2500人が本市の魅力を再認識し、SNS等を通じて本市の魅力を発信する仕組みをつくる(SNS活用に関する講習会等の開催・SNS発信企画の実施など)

3) 健幸まちづくり事業を促進させるための“インセンティブ健康プログラム”
・多くの市民および企業を動かすために、コミュニティに参加すること、歩くこと・スポーツを実施することに対しインセンティブをつける。インセンティブは市民無関心層を動かすために年間6000円最大とし、市民の努力と成果に基づきポイントを付与し、年1回QUOカードに交換して地域消費につなげられる仕組みとする。(インセンティブ原資は交付金対象外とする)
・プログラムは各世代参加できるようにスマホアプリとともに、ICTリテラシーが低くても参加できるよう活動量計で参加できる仕組みを用意する。(市内10箇所にアップロード・市内3箇所に体組成測定器を設置予定)
・1年目は主に中高齢者を対象に事業を展開、2年目は子育て世代・市内企業も加えて事業を拡大、そして3年目には2500人規模(30歳以上人口の10%)まで拡大させ、市民がまちなかに外出し、市主催の各種イベントに参加し、日々のスポーツ・健康づくりを行う風景を日常化させる。
・インセンティブ健康プログラムは、コミュニティ活動の動機付けとともに、エビデンスベースのプログラムを必須とし、社会保障費費の抑制効果につなげる。SWC首長研究会の先行事例を参考に、社会保障費を10万円/人/年抑制・3年後に1億円の効果を目標として、歩数向上と高い継続率(85%以上)を可能とする健幸ポイントプログラムとする。"

(4)事業の重要業績評価指標(KPI)
◆KPI① 地域の人口・世帯数
〔事業開始前〕 29,470人 → 〔2026年度目標〕 29,000人
・定住人口の増加を目指す。
・目標値は、2023年時の南陽市29,470人(2024年1月)に対して人口減の下げ止まりを図り、人口ビジョンで目指す2027年度に29,000人を目指す。
・数値は住民基本台帳より毎年1月時の人口で効果検証を行う。

◆KPI② 健幸アンバサダー等のボランティア活躍人数
〔事業開始前〕 0人 → 〔2026年度目標〕 200人
・対象市民の16%・4000人への情報提供することを目指し、、一人の健幸アンバサダーが12人に伝える実績をもとに試算した結果、200人の健幸アンバサダー養成を目指す。
・人数は養成講座一覧より把握する。

◆KPI③ インセンティブ健康プログラムの参加者数
〔事業開始前〕 0人 → 〔2026年度目標〕 2,500人
・インセンティブ健康施策への参加者数を増やすことで、コミュニティ活性化と情報発信力を増すことに繋がる。
・また、無関心層の掘り起こし・質の高いサービスで健康度を挙げることが、社会保障費抑制による投資的経費の獲得につながる。
・参加者数は、ICTを活用した健幸ポイントプログラム登録者として3月末時点の人数とする。

(5)効果検証等
市振興審議会(外部有識者団体)において、事業の進捗確認、KPIの達成度の検証を行う。検証をもとに、事業の見直し策を検討し、より効果のある事業体系をつくる。